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横浜地方裁判所 昭和40年(ワ)1159号 判決 1966年6月10日

原告 富山電気ビルデイング株式会社

右訴訟代理人弁護士 新宮賢蔵

被告 更生会社昭和鉄工株式会社管財人飯塚幸三郎

右訴訟代理人弁護士 朝比奈新

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

一、原告

(一)  原告が更生会社昭和鉄工株式会社に対し、別紙目録記載の約束手形に基く金三、五〇〇、〇〇〇円の更生債権を有することを確定する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求める。

二、被告

「原告の請求を棄却する。」との判決を求める。

第二、請求の原因

(一)  原告は、別紙目録記載の約束手形二通を訴外王子重工業株式会社から昭和四〇年三月二七日裏書により譲渡を受け、各支払期日に支払のため支払場所に呈示したが拒絶され、現にこれを所持している。

(二)  ところで、振出人たる昭和鉄工株式会社(以下昭和鉄工と称する)は、昭和四〇年六月一七日横浜地方裁判所において会社更生法による更生手続開始決定を受け、同年七月一日その旨官報に公告されたが、その更生債権の届出期間は同月二〇日までと定められていた。

(三)  原告は、昭和四〇年九月一〇日になってはじめて昭和鉄工が更生手続開始決定を受けた事実を知ったので、同日横浜地方裁判所に前記約束手形金合計三、五〇〇、〇〇〇円の更生債権の届出をしたところ、被告管財人は同年九月一一日の更生債権調査の一般期日において、原告が届出た右更生債権全額について異議を述べた。

(四)  被告管財人の異議は、原告の届出が債権届出期間経過後であることをその事由とするものであるが、原告は、すでに昭和四〇年四月頃から昭和鉄工に対し、本件約束手形金の支払いについて連絡交渉を続けていたのであるから、昭和鉄工および被告管財人は、当然に原告が本件約束手形による更生債権をもっていることを知っていたはずである。そして、会社更生法(以下単に法という)第四七条第二項の規定によると、裁判所は更生手続開始決定をしたときは、知れている更生債権者に対して公告事項を記載した書面を送達しなければならないとされている。さきに挙げた事情からみると、原告は知れている更生債権者にあたることが明らかであったにかかわらず、原告は右書面の送達を受けなかった。かような場合には、更生債権者の利益保護の見地から、法第一二七条の定める届出の追完をすべき期間の経過後であっても、なお原告の届出を有効なものと扱うのが相当である。ことに原告は、昭和四〇年九月一〇日になってはじめて昭和鉄工が更生手続開始決定を受けたことを知って、即日更生債権の届出をしたのであるから、これを届出期間経過後であることを理由に排除してしまうことは不当である。

(五)  なお、本件各約束手形が、仮りに被告の主張するような融通手形であったとしても、原告はかような事実を知らずに裏書交付を受けたのであるから、原告は悪意の所持人ではなく、本件手形上の権利を行使することができるものである。

(六)  よって原告は、更生会社たる昭和鉄工に対し、本件約束手形に基く届出更生債権三、五〇〇、〇〇〇円を有することの確定を求める。

第三、被告の答弁と主張

(一)  原告主張の(一)の事実は不知、同(二)の事実は認める、同(三)の事実中、原告が昭和四〇年九月一〇日にはじめて昭和鉄工の更生手続開始決定を知ったことは不知、その余の事実は認める。

(二)  被告管財人が異議を述べたのは、次の事由による。

第一に、原告は昭和鉄工について更生手続開始決定があったことを知りながら、所定の債権届出期間内に届出をなさず、かつ届出期間内に届出をしなかったことについてその責に帰することのできない特別の事由はなかったのであるから、原告がその主張のような債権をもっていたとしても、それは右届出期間の経過と同時に失権したものである。

第二に、原告の所持する本件約束手形二通はいずれも昭和鉄工が王子重工業株式会社との間で互いに融通手形を交換振出したものの一部であり、昭和鉄工も右王子重工業株式会社より同様の約束手形の振出交付を受けていたが、右王子重工業株式会社は昭和四〇年三月末に倒産して、いわゆる見返り手形が不渡りとなったので、昭和鉄工は王子重工業株式会社に対し本件手形金の支払いを拒否できたのであり、原告は右の事情を知りながらあえて本件約束手形を取得した悪意の手形所持人であるから、昭和鉄工は原告に対しても本件手形金の支払いを拒むことができたからである。

第四、証拠<省略>

理由

甲第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三号証(以上いずれも証人松崎太良の証言によって真正に成立したものと認めることができる)と証人松崎太良の証言とを合せ考えると、原告主張の(一)の事実(但し原告が裏書により本件各約束手形の譲渡を受けた日は昭和四〇年一月中旬頃である)を認めることができる。

そして、原告主張の(二)の事実は当事者間に争いがなく、また同(三)の事実も、そのうち原告が昭和鉄工の更生手続開始決定があったことを知った日の点を除いて、当事者間に争いがない。

してみると、原告が本件約束手形金債権を行使するについて昭和鉄工から悪意の抗弁の対抗を受けるべきものであったかの点はさておき、原告は、本件更生手続開始決定に定められた更生債権の届出期間内に、本件約束手形の所持人として、その手形金債権につき更生債権としての届出をしなかったわけであるが、この点について原告は、原告が法第四七条第二項の定める書面の送達を受けておらず、本件開始決定があったことを昭和四〇年九月一〇日になってはじめて知ったのであるから、原告の更生債権の届出は有効である旨主張している。しかし当裁判所は、原告が法定の届出期間内に届出をしなかったことにより、原告の本件約束手形金債権は更生債権としては失権したものと考える。その理由は次のとおり。

甲第三号証および証人松崎太良の証言によると、本件更生手続開始決定があった当時、原告が知れている債権者であったことを認めることができ、従って、裁判所が本件更生手続開始決定をしたときは、法第四七条第二項の規定により、同条第一項に掲げる事項を記載した書面を原告に送達しなければならなかったことは、原告主張のとおりである。そして、知れている債権者に対して公告のほかさらに右書面の送達を要するとしているのが、債権者保護のためであることも明らかである。

しかしながら、法第一五条の規定によると、同法の規定により公告および送達をしなければならない場合には、送達は書類を通常の取扱いによる郵便に付してすることができるとしたうえで、公告は一切の関係人に対し送達の効力を有すると定められている。その趣旨は、会社更生手続に関する事項の公示方法として公告と送達の方法が併用されている場合には、公告手続がとられる以上、送達の方法は簡略化して差支えなしとし、また公示の効果の発生時期については、個別的送達を基準とすることは妥当を欠くので、画一的に、公告が効力を生じたときを基準としたものと解すべきである。そして、更生手続開始決定の公示方法として、法第四七条は公告と送達の方法を併用しているのであるから、本件更生手続開始決定の公示の効果は、官報公告のあった昭和四〇年七月一日の翌日発生したのであり、従って、法第四七条第二項の規定による書面の送達がなかったところで、原告は本件更生手続開始決定があったことを知らなかったということを許されないのであり、また事実上同年九月一〇日になって知ったからといって、そのことをもって法律上の効果主張の根拠とすることはできないのである。

一方、更生債権は、届出によって将来の更生計画上の受益的資格を得るため、会社の資産状態を基礎として作成される更生計画案の重要な基盤となるもので、特にその存在を画一的に速かに明らかにする必要があるわけで、従って、債権者が知れている者かどうかにかかわりなく、裁判所の定めた一定の期間内に届出をしなければならないとされるのであり、各債権者の個別的事情の如何によって届出の時期を二、三にすることは許されないのである。かような画一的取扱いによって生ずることあるべき不当な結果を救済するため、法第一二七条は届出の追完が許される場合を定めているが、原告が事実上本件更生手続開始決定のあったことを知らなかったことをもって届出の追完を許すべき根拠とするわけにいかないことは、さきの説明から明らかであり、他に原告は届出の追完を許されるべき事由があったことを主張立証していない。

してみると、原告に対して法第四七条第二項の規定による書面の送達がなかったところで、そのことは更生債権の届出期間について何の影響も及ぼすべきことがらではなかったのであり、結局本件更生手続開始決定に定められた届出期間経過後になされた原告の本件更生債権の届出は、その効力なく、更生債権としては失権したことになる。原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないこと明らかである。 <省略>

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